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出会い・感動インタビュー

―ワクワクする出会いからリッツ・カールトンへ

リッツ・カールトン東京オフィスにて

リッツ・カールトンの初代社長であるホルスト・シュルツィ氏との出会いも大変面白かった。僕はSFフェアモントに勤務していたころで、当時のリッツ・カールトンといえば、アメリカ国内に2軒のみの小さなホテルカンパニーでした。1987年にドイツでホテル・観光業界のコンベンションがあり、私は友人とそれ に参加していたんです。その友人に「面白い人を紹介するよ」といわれて会ったのが、シュルツィ氏との最初の出会いでした。初対面の名もないような東洋人とがっちり握手して、「このホテルを世界に広げたいんだ。ヨーロッパやアジアにね。君の国にも行くかもしれないよ」と無邪気に夢を聞かせてくれる姿に思わず 「自分はいつかこの人と一緒に働くだろうな」と確信しました。ホテルスクールに入ったときと同じ感覚です。なによりも、子供のような彼の純粋さに惹かれたんですね。

そして、3年後にはリッツ・カールトン・サンフランシスコの開業に携わっていました。大阪や東京での開業も体験しましたが、普段の仕事とは全く違うエネル ギーが必要でしたね。リッツ・カールトンにとって最も重要な人材確保はもちろん、各段階での意見調整や、オーナーとカンパニーの理念共有など、山ほどある 問題に奔走する日々。「クレド」の精神を通じて「ホスピタリティ」と「感性」を共有することがリッツ・カールトンの生命ですから、シュルツィ氏自らが現地 に出向いてスタッフと意見交換を行うこともしょっちゅうでした。そんなとき、もし総支配人の考え方がブレているようなケースに出会うと、烈火のごとく怒っていたのが印象的でした。

そんなさまざまな経験の総括として、リッツ・カールトンで自分が体験、実施してきたことの意味を考えるいい機会になったのが書籍の出版でした。「サービス」も「ホスピタリティ」も「感性」も、自分の概念の枠の中からいったん外に出して、改めてじっくり向き合う。そしていざ書き始めてみると、これが面白いんですよ。それまで得意だと思っていた部分の筆が進まなかったり、また苦手と思っていた部分が意外とスラスラ書けたり、という発見がありました。

学んできたことや経験を整理したことで、自分自身の「知識」と「知恵」と「感性」の棚卸しになったんですね。そして過去を振り返ると同時に、未来に向けて 進むべき方向もおぼろげながら見えた気がしたんです。それまでも「ホスピタリティ」という言葉を使っていましたが、本当の意味で深く考えたのは、その時期なんですよ。

―感性が生み出すホスピタリティ

サービスとホスピタリティの違いって意識されていますか?

高野 登さん

今はホスピタリティという言葉が独り歩きしがちですが、実際のホテルマンでも深い部分で正確に理解している人は少ないと思います。実はこの2つは延長線上にある同種のものではない、つまりサービスの先にホスピタリティがあるわけではないと思うんです。

サービスというのは、何かを提供する側が定義するもの。ホテルであれば、その評価もサービス料というかた ちで支払われますよね。そして目的は相手を満足させること。では満足の先には何があると思いますか?そこには大満足しかないんです。サービスを考えると きに「不満」、「普通」、「満足」、「大満足」というポイントを通過する一本の横軸を想像してみて下さい。価格やアメニティ(化粧品や備品など)の満足度 は、もっともっと、とキリがないほど求められますから、そこを追求していくと会社もスタッフも苦しくなっていくでしょう。あるのは果てしない競争だけです。長線上にある同種のものではない、つまりサービスの先にホスピタリティがあるわけではないと思うんです。

高野 登さん

それに対してホスピタリティは、目の前の相手の心に、こちらの心を添えて対話する姿勢のこと。そして一人ひとりの相 手が求めているものの違いに気づき、感じ取る「感性」がなくては成り立たないものです。これは受け取った相手が評価するものであり、サービス料のように価 値を一律で決められるものではない。ホスピタリティは、サービスの横軸と直角に交わる縦軸のようなものなんです。「普通」というポイントの先には「感動」 を生み出すことができる。そしてその先は「感謝」になる。その反対は「感動がない」ことによる落胆であり、「不満」とは少し性質の違うものです。たとえばサービス業でいつも同じ対応ができるのは、サービスマニュアルがあるからです。いわば、それは基礎体力のようなもので、当然ホスピタリティを生み出す過程でも絶対に必要なこと。アスリートの練習でも、基礎部分の鍛錬に最も時間を費やしますよね。そこは「量」が勝負の世界でもある。だけどそれだけ では知識が豊富な「一人前」のサービスマンにはなれても、それを知恵に変えて使いこなす「一流」のホスピタリティマンにはなれないと思うんです。

さらに大きな違いがあります。ホスピタリティは反復が効くんですよ。飽きることがない。フロントで名前を呼ばれて「お久しぶりですね。最 近いらっしゃらないので、さみしく思っていました」と言われれば、そこから会話が生まれる。これは何度でも繰り返すことができる「感動」の対話ですよね。

そんな次元の違いに気付かずに、いつまでも「満足」の先に「感動」を探していても行き詰まってしまうだけなんですね。そこで必要なのは「感性」の切り替 えです。相手が本当は何を求めているのかを感じ取れれば、お互いにとって良い関係が築けますよね。僕が未知の環境に飛び込むことでワクワクする人生を歩んでいるように、ちょっとしたきっかけで景色は変わるんですよ。視点を少しずらすだけで、見えてくるものがある。そうすると、より味わい深い人生が拓かれて いく。それが今の僕の実感です。

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