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出会い・感動インタビュー

―転機となった印象的な出会い。

中でも一番大きな道しるべは、なんといっても森繁久彌さんでしたね。女優としての私・赤木春恵にとっても間違いなく転機となったその出会いのことは、決して忘れられません。
もう51年も前になります。森繁劇団の大阪での舞台に出演予定の方が出られなくなり、劇団のプロデューサーから代役をやらないかと問い合わせがあったの。当時、私は京都に住んでいて、主婦兼業で女優をしていました。子供もまだヨチヨチ歩きでしたし、とても無理だと思って、大阪まで断りに行ったんですよ。そこでたまたま公演発表の記者会見に鉢合わせたのが運の始まりね。会見でお話しをされる森繁さんを見て、完璧に打ちのめされちゃったのですもの。

その語り口のさわやかさや、まるで詩人や作家のような言葉が次々とあふれ出してきていたのを、まるで昨日のことのように思い出すわ。なんてフレッシュで 頭のいい俳優なんだろう、って聞き惚れていました。実は、それが森繁さんにお会いするのは初めて。今まで出会ったことのないタイプの人柄に、一気に惹きつ けられてしまったのね。発表会見が終わってその場に居合わせた記者たちからコメントを求められた私は、思わず「ぜひこういうお芝居に出たいんです。一所懸 命がんばります」といってしまったんです。ミイラ取りがミイラになるって、まさにこのことですね。

確かに新しい世界への好奇心もあったけれど、なによりワクワク心がときめいたというのが全てだったかもしれない。心の底から、この人と一緒に芝居をしてみたいと思ったんです。
それからの10年間はいろいろな役をいただきながら、必死に自分の芝居を磨く日々。私の修業時代ね。セリフも型どおりばかり、勧善懲悪の時代劇しか知ら なかった私には、森繁さんが汚い格好で演じるリアリティ一杯の人間像は、一種のカルチャーショックでした。現代劇という新鮮で多様な世界を体験すること で、女優としても大きく飛躍できたのだと思います。

でも、出会いって決して若い頃だけじゃないのよ。たとえば50代にもありました。
橋田壽賀子さんと知り合ったのもそのひとつ。ドラマに出していただいたのがきっかけで、それまで注目されていなかった「姑」役にスポットが当たったんです。その出会いも、本当に偶然。
森光子さんの「放浪記」を見に行ったとき、後ろ方から「お母さん!」と呼ばれて振り向くと、宇津井健さんが中年の女性とご一緒。それが橋田さんで私たちは初対面だったの。舞台の後でお話したんですけど「今あなたに出てもらうつもりで、ドラマの脚本を書いているのよ」とおっしゃるじゃありませんか。「四季の家」というNHKドラマの祖母役というお話。吃驚して、早速NHKのプロデューサーに「橋田先生がこうおっしゃっているんですが」と電話したら、「先生がそうおっしゃっているのならよろしくお願いします」と。それで正式に出演が決まったんです。あのとき舞台を見に行ってなかったら、私の「姑」芝居はな かったかもしれないと思うと、本当に不思議なものですね。

―親友、森 光子さんの存在。

こんな話ばかりしているものですから、女優というのはたくさんの出会いがあって、華やかな商売だと思われる方も多いみたいですね。でも実は、この世界で親友と呼べる人を持つのは奇跡に近いこと。みんなライバルみたいなものですからね。1回会うだけで誰とでもすぐ友達になれる反面、心を許すところまで深い付 き合いができる人には、なかなか出会えません。
ただし当たり前かもしれませんが、親友を持つというのは仕事を続ける上でどれだけ励みになることか!年を重ねるごとにその重みが身にしみてきます。私の場合は森光子さんがその貴重な親友の一人。もう70年のお付き合いです。

昭和15年、慰問団のトラックの上で私たちは知り合いました。当時は戦争中で、合同慰問団というものが組織され、映画会社各社から10人ぐらいの役者が選ばれて貨物用のトラックで全国津々浦々をまわっていたんです。
森さんはすでに新興キネマのスターとして名が知られていましたが、私は松竹ではまだ養成中の身。とはいえ同行中の気安さで「赤木春恵です、よろしくお願いします」って挨拶できた。それが最初です。
彼女の印象は「かわいい」の一言。でもふたりとも同じ世代でしたから、お互いの存在を心にとめるようになったのね。それ以来、お互いが女優として切磋琢磨して生きてくることができたように感じています。今では何もいわなくても心が通じ合っているように思います。
ときにはふたりで昔のことを思い出して「おかしいね」って笑うこともありますが、決していつもたくさんお喋りをしているわけじゃないんです。顔を見て目が合えば、それだけで気持ちが伝わる気がする。同じ時代に同じ女優の仕事をしているのが幸せなんです。お互いの才能や努力を認めて、高めあう関係ができて いるから、ライバルとして意識するなんていう感覚も全くありません。偉大な彼女をただただ尊敬しています。
そもそも私と彼女は演じる役柄が違いますからね。でも親友というだけでは表現できない不思議な存在です。今でいう「ソウルメイト」のようなものでしょうか。心がつながっているから、ときめく気持ちも共有できる。そんな出会いがあるのも人生の醍醐味。長い人生もいいものです。若くなくたって元気いっぱいじゃなくたって、やっぱり人生って素晴らしいものだと、この歳になって改めて感動しています。

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